先日、ひとりの高校生が急に右眼が見にくくなったと受診されました。視力を測ってみると0.3しかなく、眼底に出血していました(図1)。特に持病もなく、眼をぶつけた既往もありませんでした。原因が分からなかったので網膜硝子体専門の先生に診ていただきましたところ、バルサルバ網膜症の可能性が高いということでした。
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【図1】初診時の右眼眼底写真 |
視神経乳頭上部に出血しています。その上方の濁った赤黒い部分は網膜の下に出血している部分です。また網膜の中心である黄斑部が硝子体出血により濁って見えていません。
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バルサルバ網膜症とは、バルサルバ効果に伴ってまれに生じる出血性網膜症です。バルサルバ効果とは、息を止めていきむことにより筋肉が緊張し、いつもより重たいものをもてたり、血圧が上昇して心拍が早まることをいいます。一方で、いきむことにより胸腔内圧が急激に上昇するため静脈血が胸腔内へ還流できなくなり静脈圧が急激に上がります。その結果、網膜血管が破綻して出血するのがバルサルバ網膜症の原因となっています。
バルサルバ網膜症の経過は良好なことが多く、ほとんどのケースでは安静にして経過観察をするだけで後遺症もなく回復します。今回の患者さんの場合も入院して安静を保った結果、一週間後には視力も1.0まで回復しました(図2)。原因としていきみがあったかどうかはっきりしませんでしたが、咳きや嘔吐などで発症する場合もあるようです。
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【図2】1週間後の右眼眼底写真 |
硝子体出血は下方にわずかに残るだけで、黄斑部はクリアーになりました。視神経乳頭部の出血も少し薄くなってきました。 |
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筋トレの際に息を止めるのはNGとされています。バルサルバ効果で血圧が一時的に上昇して、バルサルバ網膜症だけではなく脳血管や心臓血管の障害の原因となるからです。また力を抜いた瞬間に血圧が急激に下がって失神してしまうこともあるそうです。また便秘時にいきむのも同じ理由でよくありません。
という私自身も筋トレの際に何気なく息を止めていたり、便秘になるとついついいきんでしまいます。日常生活の何気ない行動が病気を招く可能性があることを改めて認識いたしました。 |
2015年10月1日掲載 |
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